2014年9月19日金曜日

[World News #098] パレスチナ映画を通して見えてくる〜映画の国籍 今回は第71回ヴェネツィア映画祭におけるパレスチナ映画2作をご紹介し、映画の”国籍”について考えたいと思います。 パレスチナを国と見なすか、もしくは自治区という位置づけにするか。これはパレスチナ・イスラエル問題が解決しない限り論争を招く問題です。そして国際映画祭も同じ問題で頭を抱えているのです。国際映画祭にとって映画製作費の出資元がどこであるかが、パレスチナ国とパレスチナ自治区の境界線を引く鍵になっているようです。 以前、[World News #072](http://ift.tt/1uYPg2U)でご紹介したハニ・アブ・アサド監督の映画『パラダイス・ナウ』は、2006年ゴールデングローブ賞外国語映画賞を受賞し高い評価を受けましたが、作品が”パレスチナ”映画なのか、または”パレスチナ自治区”の映画であるのか論争を引き起こしました。この時、論点となった一つの問題は、制作資金の出資元はどこか?『パラダイス・ナウ』の資金がヨーロッパやイスラエルから出ていた事から監督は強くパレスチナ国の映画として主張できませんでした。このことから監督は、今年第86回アカデミー賞外国語映画賞にノミネート、カンヌ映画祭ある視点・特別審査員賞を受賞した『オマール、最後の選択』をDubai International Film Festivalからの出資を除けば、制作資金の95%がパレスチナ人のお金でありパレスチナ国による映画として出品することができました。 さて、第71回ヴェネツィア映画祭でのパレスチナ人監督による作品『Villa Touma』も映画の国籍そして出資元に関する論争を巻き起こしています。 『Villa Touma』 2004年日本でも公開された映画『シリアの花嫁』の共同脚本家スハ・アラフによる初の長編作品です。『Villa Touma』は、エルサレムのカトリック系孤児院で育った18歳のBadiaが3人の叔母が暮らすRamallahの村に移り住み、嫁入り修行に挑みます。3人の叔母は、パレスチナでは少数派となったキリスト教裕福層の名残であり、Badiaに彼女らの仕来りを教える様子はブルジョア階級の国境を越えた共通性を垣間見ることができます。監督自身、ヨーロッパと変わらないパレスチナの姿を見てほしかったと語っています。スハ・アラフ監督はイスラエル生まれのパレスチナ人であり、イスラエルにおけるマイノリティとして暮らしてきました。さて今回の本題である『Villa Touma』の”国籍”に移りたいと思います。 ハニ・アブ・アサド監督同様、『Villa Touma』はその監督の国籍と制作資金の出所どちらを映画の国籍として認めるかが問題になっています。『Villa Touma』の制作資金約$400,000がNew Israel Fund (NIF) つまりイスラエル国民の税金から出ているのです。このことから、ヴェネツィア映画祭に『Villa Touma』を”パレスチナ”映画として出品したスハ・アラフ監督をイスラエルの科学文化スポーツ省は非難し$400,000を返済するよう命じています。一方で、スハ・アラフ監督は制作資金を調達する段階でアラブ系財団にアプローチしたが応対がなく仕方なくイスラエルからの出資を引き受けたと述べています。また、パレスチナ政府による強い非難に対して監督は、”イスラエルに住む20%がパレスチナ人であり私たちも税金を払っているのでイスラエル国からの資金を利用するのは私の権利である。私はイスラエルで暮らすパレスチナ人でありナショナル・アイデンティティを主張する権利があり、映画はその制作者の国籍を受け継ぐ”などと主張しイスラエル政府に反論しています。 一方で制作資金問題を上手く回避しパレスチナ映画としてヴェネツィア映画祭で誰にも文句を言われる事なく出品する事ができたのが『IO STO CON LA SPOSA - ON THE BRIDE'S SIDE』(أنا مع العروسة)です。 『IO STO CON LA SPOSA - ON THE BRIDE'S SIDE』 Antonio Augugliaro/Gabriele Del Grande/Khaled Soliman Al Nassiryによる思いつきで14日間でシナリオを準備、4日間で撮影された作品です。また制作資金の約半分はクラウド・ファウンディング(INDIEGOGO)で集められました。 パレスチナ人の詩人とイタリア人ジャーナリストが、シリアから逃れスウェーデンを目指す5人のパレスチナ人とシリア人にミラノで出会い、彼らのスウェーデンまでの道のりに協力するストーリです。彼らは5人の難民が安全に国境を越えるために架空の結婚式を想定し、スウェーデンでの結婚式に出席する花嫁と花嫁の親族として命がけの4日間の旅が始まります。もちろん全員正装しています、ドレスを着た花嫁もいます。実際に2013年11月14日から18日まで行われた花嫁一行の旅は、シリアやパレスチナの問題はもちろんの事、ヨーロッパが抱える隠された問題をも浮き彫りにしました。この映画の3名の制作者は実際にシリアからやってくる多くの難民から想像を絶する悲しい現状を聞き、この映画制作に踏み込みました。 この映画にはマニフェストがあります。誤読がないように彼らのマニフェストの英文を貼付けます: When this film comes out, we could be sentenced to 15 years in prison for aiding and abetting illegal immigration. We are prepared to take this risk because we know what the war in Syria is like. We've seen it with our own eyes. And helping people to get out of that sea of blood makes us feel like we're on the right side. The risk we're taking is crazy. But we believe there is a community of people in Europe and around the Mediterranean who hope, like us, that one day this sea will stop swallowing up the lives of its travellers and go back to being a sea of peace, where all are free to travel and where human beings are no longer divided up into legal and illegal. This community exists. The people we met in our journey across Europe belong to it, and so do the people reading this page. There are many more of us than we think, and this is the film we needed. A film manifesto for all those who believe that travelling is not a crime, and that the real crime is averting your eyes to death by travel on our Mediterranean beaches, and deaths by war in Syria. (http://ift.tt/1n9HPX1) マニフェストにあるように映画スタッフ及び出演者の中には実際の亡命者も数名いたことから国境を越える旅の撮影中に捕まれば彼らは亡命者に協力したという罪で15年間の実刑が言い渡される可能性がありました。しかし彼らはこのリスクを負ってまでも現状を多くの人に伝えたかったのです。映画のエンドロールにはクラウド・ファウンディングを通じて出資した一人一人の名前が記載されているそうです。この映画は制作者、出演者そして出資者の国境が消滅しパレスチナ及びシリアを始めとした紛争の絶えない国々で踏みつぶされる儚い命への”想い”が作らせた映画であり今後の映画制作の新たな形であるように私は感じました。 『シリアの花嫁』:http://ift.tt/1uYPdnA 『Villa Touma』: http://ift.tt/1n9WDA2 http://ift.tt/1uYPdnB http://ift.tt/1qQ4OaS 『IO STO CON LA SPOSA - ON THE BRIDE'S SIDE』: http://ift.tt/1tb89PM http://ift.tt/1n9HPX1 [World News #072] パレスチナ映画:『オマール、最後の選択』 http://ift.tt/1uYPg2U by Sevin アートな中東 http://ift.tt/1uueu9e

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