2014年12月11日木曜日

[World News #141] 25年目の『ドゥ・ザ・ライト・シング』!  サミュエル・L・ジャクソンが観客に向かって「ウェイク・アップ!」と叫んだのが1989年(日本公開はその翌年)。スパイク・リー監督・主演によるこのド派手で極彩色の陰惨なコメディ『ドゥ・ザ・ライト・シング』(#1)が、人種差別にも階級闘争にも解決などなく終わりなど存在しないと強烈に宣言してから、今年でもう25年経つ。当時、大学を卒業したばかりだった私は、友人の家でまだ公開前だったこの作品のスクリプトを読んだことを覚えている。パンフレット用にシナリオ採録を書き起こすアルバイトをしていたとのことだが、今の学生には到底信じがたいであろう高額ギャラをもらっていると聞いた。それがバブル時代。あれから日本も世界も大きく変わったように思う。しかし、その根本的な部分ではどうだろう。私たちは果たしてサミュエル・L・ジャクソンのパンチで目覚めただろうか。差別や貧困はもはや過去のものとなっただろうか。  いや、差別にも貧困にも解決などなく終わりなど存在しない。事実、現在のアメリカは再び人種差別問題によって大きく揺れている。ミズーリ州ファーガソンで起きた白人警官による黒人青年射殺事件がその最大の発火点だ。警官が大陪審によって不起訴処分となった後、この決定への抗議行動は全米へと燃え広がっている。そして事件は、ファーガソンだけにとどまらない。ニューヨーク市警の白人警官もまた、課税対象外のタバコを販売した罪で黒人男性を逮捕した際、その背後から首を締め死亡させてしまったのだ。この場合もまた、当該警官は不起訴処分となった。そして、この事件がニューヨークに住む多くの住民たちの記憶から呼び覚ました一本の映画こそ、ちょうど25年前に公開された『ドゥ・ザ・ライト・シング』であったのだ。  このスパイク・リー作品で、大きなラジカセを常に抱え、パブリック・エネミー『ファイト・ザ・パワー』を大音量で流し続けていたレディオ・ラヒームは、物語終盤、白人警官の手によって背後から絞め殺されてしまう。それはまさに、25年後の現在をそのまま予言したかのようだ。この不吉なイメージの一致にインスパイアされ、ニューヨークで一つの興味深いイベントが開催された。『ドゥ・ザ・ライト・シング』スクリプトのライブリーディングである。主催したのは、「合衆国で同じアメリカ人の人権が暴力的に侵害されていることに強い関心を持つ市民たちのネットワーク」(#2)である「Blackout for Human Rights」だ。この無料イベントには、オリジナルキャストを含む俳優たちが多数出演し、ニューヨークのリンカーンセンターを舞台とした(#3)。また、開催された11月28日金曜日は、感謝祭翌日であり、アメリカで最も小売店の売り上げが黒字になるとされることから「ブラック・フライデー」と呼ばれる日でもあった。その黒字のブラックを黒人のブラックへと読み替えようという遊戯的意図がこのイベントには込められていたわけだ。  ニューヨークでの二人の黒人犠牲者に捧げられたこの朗読会は、『フルートベール駅で』監督ライアン・クーグラーと『Newlyweds』監督シャカ・キングによって演出され、『フルートベール駅で』に主演したマイケル・B・ジョーダン、そしてオリジナル作でもピノを演じたジョン・タトゥーロらが出演した。クーグラーは、次のようにコメントしている。「(Blackout for Human Rightsの)ブラックアウトというテーマは、11月28日金曜日を消費者精神(コンシューマリズム)ではなくアクティビズム精神の日へと変化させるものだ。これを踏まえ、私たちはスパイク・リー作品のライブリーディングを行うことが、人々にショッピング以外の別の楽しみを与えることになると考えた。」(#4)  75席のキャパしかない会場では、数時間前から300人以上の観客が列をなしてその開演を待ったという。そして、朗読会がクライマックスにさしかかり、レディオ・ラヒームが警官によって絞殺される場面が朗読された瞬間、俳優たち背後の巨大スクリーンにはファーガソンのイメージが映し出され、会場は沈黙に支配されたとのことだ。その様子をリポートしたIndieWireのGreg Cwikは、次のように文章を結んでいる(#5)。「四半世紀経った現在、それでも『ドゥ・ザ・ライト・シング』がこれほどアクチュアルな問題を私たちに突きつけるのはあまりに驚くべき事だ。それは過去の遺物となるべきものだったのだ。でも、そうじゃない。それがトゥルースなんだよ、ルース!」 大寺眞輔(映画批評家、早稲田大学講師、その他) Twitter:http://ift.tt/NSy3rx Facebook:http://ift.tt/1knGQPv blog:http://blog.ecri.biz/ 12/19(金)19:30『自分に見合った顔』 12/26(金)19:00『私たちの好きな八月』 ミゲル・ゴメス特集@新文芸坐シネマテークにて上映! http://ift.tt/1uR44n5 #1 http://ift.tt/sJ368d #2 http://ift.tt/1FsNevM #3 http://ift.tt/1yJ0zQs #4 http://ift.tt/1xFINcJ #5 http://ift.tt/1z9g6XW

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