2014年7月2日水曜日

[ World News #049 ] クール・ブリタニアに学ぶ、オリンピックにおけるクリエイティブ産業の役割とは 先日、イギリスのデヴィッド・キャメロン首相が、1990年代の「クール・ブリタニア」政策を彷彿とさせるパーティーを開きました。クリエイティブ産業界を牽引する人々を招待したこの会には、女優のヘレナ・ボナム・カーターや、TVドラマ『ゲーム・オブ・スローンズ』の女優ナタリー・ドーマー、映画会社ミラマックスの設立者で『恋に落ちたシェイクスピア』ではプロデューサーとしてアカデミー作品賞を受賞したハーヴェイ・ワインスタイン、またはBBCや20世紀FOXの重役などが参加しました。(#1, 2)  なぜ、クリエイティブ産業に対してこのようなもてなしがされるのでしょうか? 年に700億ポンドを越える利益を生み出すクリエイティブ産業は、いまやイギリス経済の柱だからです。キャメロン首相は「我々は他国と張り合えるような天然資源をもっていないが、文化的資源はもっているのだ」と言います。(#3) イギリスがクリエイティブ産業の可能性に自覚的になったのは、「ニュー・レイバー(新しい労働党)、ニュー・ブリテン(新しい英国)」を掲げるトニー・ブレア政権(1997〜2007年)においてでした。歴史しか取り柄のない老衰した英国というイメージを打ち破り、今をときめく若いエネルギーが溢れるモダンな英国のイメージを打ち出すことを目的とするこの政策は、音楽産業ではオアシス、ブラーに代表されるブリット・ポップを、アートではダミアン・ハーストに代表されるヤング・ブリティッシュ・アーティストを、ファッションではアレキサンダー・マックイーンら若手デザイナーを、映画産業では『トレイン・スポッティング』を監督したダニー・ボイルなどを広告塔に、クール・ブリタニア現象として世界に広まっていきます。もちまえの洞察力で国民の関心をつかむにはどうしたらいいかを心得ていたブレアは、首相官邸にオアシスのノエル・ギャラガーをはじめとする若手ミュージシャンやアーティストを多く招待し、前政権のサッチャリズムで傷ついた国民に希望を与えたのです。 こうしたブレアの文化政策のおいしいとこ取りをしているのが、現首相、キャメロンです。2012年のロンドンオリンピックのセレモニーは、みなさんの記憶に新しいのではないでしょうか? 開会式の総合監督を務めたのは、クール・ブリタニア時代から活躍しているダニー・ボイルです。労働者階級出身の彼は、上流階級から生まれたイギリスの伝統文化だけでなく、新旧のロックミュージックや英国映画をふんだんに取り入れ、かつてのクール・ブリタニアを彷彿とさせるポップでモダンな英国像を全面に押し出しました。閉会式は、ダミアン・ハーストがデザインしたユニオンジャックにはじまり、ポール・マッカートニーの「Hey Jude」の大合唱で幕を閉じました。ビートルズやストーンズが登場した1960年代当時は、イギリスのポップカルチャーは低俗な労働者階級の文化とされていましたが、オリンピックのセレモニーを通して、ポップカルチャーが階級を越えた英国の文化的アイデンティティを保証する存在となったことが、全世界に発信されました。いまや、イギリスにとってクリエイティブ産業は、経済的にも、文化的にも最も大切なものなのです。 このイギリスの例は、国の自己紹介の場であるオリンピックのセレモニーで、クリエイティブ産業が重要な役割を担うということを教えてくれます。2020年に東京オリンピックを控える日本も、「新しい日本の姿を世界に示すとともに、日本の伝統文化も称える」というコンセプトの開閉会式を予定しています。(#4) これを実現させるためには、まずクリエイティブ産業への意識を高め、イギリスのように官民共同で発展させていかなければならないでしょう。また、海外にアピールするためには、国民がその文化を自分たちのものだと自覚していることも重要です。たとえば、1998年の長野オリンピックの開会式は、全国の国民にとってはなじみのない長野の伝統文化に特化した内容であったため、盛り上がりに欠けるものになってしまいました。この7年間のうちに、クリエイティブ産業に対する日本国民の意識そのものを変えていくことが必要でしょう。映画産業としては、海外のコンペティションで受賞をするような質の高い作品の国内での認知をあげていくべきではないでしょうか。「大きなアイディアをもつ小さな島国」(#5) という共通点をもつ日本は、オリンピックのセレモニーで文化的アピールに成功したイギリスに続くことができるのでしょうか。来る東京オリンピックにむけて、クリエイティブ産業の役割をもう一度見つめ直す必要がありそうです。 お読みいただき、ありがとうございました。 Posted by 北島さつき ※写真は、世界中で絶大な人気を誇るイギリスのボーイバンド、One Directionの「One Way Or Another」のプロモーションビデオに出演したキャメロン首相。(このシングルは、英チャリティ団体「コミック・リリーフ」が主催するイベント 「レッド・ノーズ・デイ」のオフィシャル・ソングとして発売され、売り上げはすべて発展途上国に寄付された。) #1 The Guardian: David Cameron revisits Cool Britannia (with Michael McIntyre and Cilla Black) http://ift.tt/1qL0wyz #2 ベネディクト・カンバーバッチ、ハリソン・フォード、エマ・ワトソンといったAリストクラスのセレブリティは、パーティーに招待されていたと思われるものの、現れませんでした。 The Guardian: Cumberbatch and Harrison Ford top Cameron's Cool Britannia revival http://ift.tt/TvGDPY #3  #1と同出典 #4 東京オリンピック公式サイト http://ift.tt/Vc4uW7 #5 「ニュー・ブリテン(新しい英国)」政策の下敷きとなった『イギリス−われらのアイデンティティの再生』「創造力の島」の一節より。「創造力を培うには、画一性を求める圧力に抗し、新しさに価値を置く多様かつ挑戦的な社会を必要とする。それこそ創造性と発明の最前線にあって各分野で世界をリードしてきたイギリスの歴史であり、大きなアイディアをもつ小さな島の歴史なのである。」黒岩徹、『決断するイギリス ニューリーダーの誕生』、文藝春秋、1999年、26頁。 The INDEPENDENT: David Cameron's party was less Cool Britannia and more Game of Thrones http://ift.tt/V4tAWQ THE CONVERSATION: David Cameron’s ‘Cool Britannia 2’ – be there and be square http://ift.tt/Vz4NLn 黒岩徹、『決断するイギリス ニューリーダーの誕生』、文藝春秋、1999年



via inside IndieTokyo http://ift.tt/Vc4uFP

0 件のコメント:

コメントを投稿