2014年8月12日火曜日

[World News #074] デジタル時代にインディペンデント映画作家が立ち向かうべき問題とは? 「デジタル時代にインディペンデント映画作家が立ち向かうべき問題とは?」と題されたインタビュー集がIndieWireに掲載されました(#1)。たいへん興味深い内容であり、日本の映画作家や映画ファンに示唆するところも多いと思われるため、「映画作家は撮影開始前にその配給について考えるべきか?」(#2)や「インディペンデント映画作家にとっての未来とは?」(#3)と題されたインタビュー集と共に、以下にその大ざっぱな内容を訳出しておこうと思います。 その前に、このアーティクルの短いリードには次のように記述されています。 「今日の映画作家にとって、プロフェッショナルなツールにアクセスすることはかつてなく容易であり、同時に過度な競争の中で観客を見つけることはかつてなく難しくなっている。Sundance NEXTで取り上げられた映画作家たちにこの問題をぶつけてみた。」 ここでまず、日本で彼らの発言を読むときに踏まえておくべき二つの前提があります。 まず、映画であれ他の表現媒体であれ、その内容が優れていればそれは放っておいても興行的ないし世間的に評価を得て成功するという考えは、今日世界的に完全に否定されているということです。作品はその内的な価値以外に様々なコンテクストの中で存在しており、それがどのように機能するかというアーキテクトの問題こそが、こうした側面においては遙かに重要なものとして優先されるということ。(これは、作品の出来がもはや重要ではないということではなく、それが重要であるからこそ、優れた作品が成功しうる状況を作るべきだという意味です。) 次に、ここで紹介されるアメリカのインディペンデント映画作家たちが抱える問題は、その多くが日本でも同様に見出されるものであるとは言え、少なくとも彼らの状況は日本より遙かにマシだということ。それは、先述したアーキテクトの問題において、アメリカの環境は日本よりずっと先に進んでいるからです。彼らには安価でアクセスの容易なプロフェッショナル向け映画製作ツールが様々な領域で潤沢に(選択肢の一つとして、つまりそれらを使わない選択もあり得るものとして)用意されており、またその製作資金を調達するためのクラウドファンディングや、優れた作品を選抜するための映画祭、それを広めるための言説とメディア、世界映画の最前線に触れるための情報媒体、そしてそのベースとなる知的好奇心など、現在の日本とは比較にならないレベルにあると私は思います。 しかし、そんなアメリカのインディペンデント映画作家たちにとってさえ、深刻な問題が数多く存在する。そしてそれは、日本でも等しく共有されるものでもあるのです。私たちは、彼らがもはや悩む必要のない問題を数多く抱えていますが、彼らの問題は私たちにとっても極めて重要であり、深刻なものなのです。残念ながら、そのリアルな現状認識に立つことでしか、私たちにその先の未来は訪れないと私は感じます。 以下、採録されたインタビューの幾つかです。 ここで紹介されている映画作家たちは、いずれも現在非常に高く評価され注目されている人たちばかり。その簡単なプロフィールも末尾の注に含めておきましたので、是非合わせて参照して下さい。 ■デジタル時代にインディペンデント映画作家が立ち向かうべき問題とは? ジェフ・バエナ(#4) 「まず、マーケットが商品で飽和していること。とりわけ、デジタル革命と映画製作の低予算化、テクノロジーの普及によってものすごく多くの映画が製作されている。こうした中をくぐり抜けてインパクトを残すのは並大抵の事じゃできない。次に、テクノロジーに振り回されない知恵を身につけること。多くの人間がデジタル技術とビジュアルエフェクトを使いすぎている。物語を語るためだけに、過剰に技術に依存しすぎているんだ。」 アンナ・リリー・アミールプール(#5) 「私にとって、映画製作とは発明家になるようなものよ。どんな時代にも、その時既にあった物を土台として様々に異なる何かが発明された。私たちは私たちの時間と空間に属している。私たちは、私たちの時間と空間が生みだしたものでもあるの。私は、「ちくしょう、35ミリフィルムで撮らなくちゃならないんだ!」とかそんなこと言うタイプじゃない。私たちは私たちがすべきことをする。そして私には私の美学がある。(「スリラー」メイキングのVHSテープを指さして)これが私にとっての映画学校よ。毎日、何ヶ月も続けて見直したわ。何千回もこれを見直す必要が私にはあったの。映画製作には様々な問題があるんじゃなくて、すべては一つの問題なの。問題を解決し続けること、ただそれだけがあるの。」 ■映画作家は撮影開始前にその配給について考えるべきか? アレックス・ロス・ペリー(#6) 「他の人がどうすべきかなんて僕には分からないよ。ただ、こうした問題に関する議論は映画を作るアイディア段階から人と交わすものだから、どっちにせよ考えざるを得ないよね。映画の商業的側面や配給の可能性は、その作品が500万円の興収を目指すのか、それとも1億必要なのかって問題に影響するから。 『リッスン・アップ・フィリップ』を撮ってたときの事なんだけど、ある場面でジョナサン・プライスがジェイソン・シュワルツマンをレストランに連れて行くことになっていたんだ。でもそこでスタッフの一人が、これは意味がないって言った。なんでこの場面でわざわざレストランを探して貸し切らなきゃいけないんだって。そっくりそのまま彼の家でやれば良いじゃないかって。結局、この場面は作品の中でも僕のお気に入りになった。あれは実に創造的な問題解決法だったよ。低予算の映画作りにおいて、こういう会話はしばしばとても有益なものになると僕は思ってる。」 マリク・ヴィタル(#7) 「映画製作者は、自分の作品の観客について考えるべきだと私は思う。どうやって観客と結びつくか、そしてどうやって作品を市場に出すべきか。こうしたことの全てが映画作りの一部なんだ。作品がその本来の観客に辿り着くまではね。こう考えるのが現実的だと私は思う。映画を作りながら、その作品の観客が誰なのか考えるのは良いことだよ。Netflixで流されるのか、映画館なのか、VODなのか。その最終目的地をどこに設定したいか考えるべきだと思う。それがプロジェクトの性格を決定するんだ。」 ■インディペンデント映画作家にとっての未来とは? ゼルナー兄弟(#8) 「資金集めや配給といった昔からある問題は変わらず続くと思うね。でも、テクノロジーの進化によって映画を様々な規模や予算で作ることがずっと簡単になった。この進化はあまりにも急速で、とりわけ配給の側面においてそうなんだけど、だからその変化について行くこと、自分を適応させることが重要だと思う。それこそ、今の映画製作者の誰もが直面しなくちゃいけない課題となるだろうね。」 アダム・ウィンガード(#9) 「それは全て技術かどこに向かうかによるよ。俺らの映画作りが現在ある姿ってのは、デジタル技術が進化したことや上映形態の変化、それに、ネットが全てを変えてしまった結果だからな。テクノロジーはますます進化するし、なんでも起こり得るね。俺にとって、映画が本当に進化するのは、それが2Dのスクリーンから飛び出て本物の3D、ホログラム・イメージになる時だ。その時こそ、本当の変化に俺らは直面するよ。それまでは現在の流動状態が続くだろうね。間違いないな。」 アンナ・リリー・アミールプール 「映画の未来に起こり得ること、それは、どれだけ大量の映画が作られるようになっても、結局良い作品の割合は変わらないだろうってことね。良い映画を作ることは簡単じゃない。そして、たとえ良い作品を作っても、それがすなわち誰もが興味を持つってことにはならない。保証なんてないの。誰もあなたに借りがある訳じゃない。他人の興味を勝ち取らなくちゃいけないのよ。どれだけ沢山のアイディアに溢れた発明家がかつて存在して、そしてどれだけの発明が実際に生まれたか?それを左右するのは、まるで事前に予測することもコントロールすることもできない時代精神みたいなものね。発明家はただ自分の発明を信じて、自分のアイディアに魅了されているべきだし、そうすることしかできない。そのうち、他の誰かも同じように信じてくれるかも知れない。でも、それを予測することはできないのよ。」 大寺眞輔 http://blog.ecri.biz/ http://ift.tt/1knGQPv http://ift.tt/NSy3rx #1 http://ift.tt/1slB7ic #2 http://ift.tt/1oz4KoO #3 http://ift.tt/1lPblvt #4 Jeff Baena 『ハッカビーズ』の脚本家であり、初監督作『Life After Beth』を完成させた。 http://ift.tt/XZzdHv #5 Ana Lily Amirpour 映画監督でありアーティスト。初長編作品『A Girl Walks Home Alone at Night』はアメリカで撮られたイラン系ヴァンパイアウェスタンとして大きな注目を集めている。 http://ift.tt/1rlmN5d #6 Alex Ross Perry アメリカの新世代インディペンデント映画作家を代表する作家の一人として、国際的に評価が高い。マンブルコアなスクリューボールコメディやピンチョン風の奇怪なSFコメディなど作風も幅広い。 http://ift.tt/XZzgmG #7 Malik Vitthal 初長編作品『Imperial Dreams』を完成させた黒人映画監督。 http://ift.tt/1rlmN5g #8 David and Nathan Zellner 兄弟で脚本と監督を担当し映画製作を続けている。菊地凛子主演の『Kumiko, the Treasure Hunter』はコーエン兄弟の『ファーゴ』が本物の宝の地図を隠していると信じた日本人女性を描いて、評価の高い作品となっている。 http://ift.tt/1rlmM19 http://ift.tt/1rlmM1b #9 Adam Wingard ホラーやスリラーなどのジャンル映画を主に手がけ、日本でも『サプライズ』などが公開されている。最新作は『The Guest』。 http://ift.tt/17XeeT3

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