2014年6月18日水曜日

[World News #039] 洗脳のリスクも?~映画音楽の光と影~  世界中で興行記録を塗り替えたディズニー映画『アナと雪の女王(原題・FROZEN)』の快進撃を支えたのは、その圧倒的な歌唱力と耳に残る旋律を誇る映画音楽。日本を含め、主題歌「Let It Go~ありのままで~」が会場で心一つに歌い継がれたことも、爆発的ヒットに結び付いた要因とされています。  このように、映画の世界観を表すのに絶大な効果を発揮する映画音楽ですが、先日、ニューヨークで訪れた「グラウンド・ゼロ・ミュージアム・ワークショップ」で、違和感を覚える出来事がありました。それは、会場に足を一歩踏み入れた途端、聞き覚えのある『グラディエーター』の主題歌が流れていたことです。  このスペクタクル超大作は、2000年の第73回アカデミー賞で作品賞のほか、主演男優賞(ラッセル・クロウ)、音響賞、視覚効果賞など5部門を制覇(*1)。作曲賞は逃したものの、ゴールデングローブ賞で音楽賞を獲得した功労者は、重厚壮大な旋律で知られ、『インセプション』でも音楽を担当したハンス・ジマーです。  訪れたワークショップは、米同時多発テロで崩壊したワールドトレードセンターの跡地「グラウンド・ゼロ」で5月下旬に一般公開が始まったばかりの「9/11メモリアルミュージアム」とは異なり、テロからの復興に焦点を当て、こじんまりしたひと部屋に写真や遺留品を展示。観光情報サイト「トリップアドバイザー」で最近、ニューヨーク市で人気のあるツアー・ランキングで2位を獲得した(*2)注目スポットとなっています。  その会場に流れていたのが、陰謀に巻き込まれ、将軍から奴隷に転落した剣闘士マキシマスが、コロッセウムで悪の皇帝を成敗した直後に流れるヘブライ語の主題歌「ついに自由に(原題・Now We are Free)」です。筆者も思い入れのある映画で、落ち込んだ時に自らを鼓舞しようと毎日のように繰り返し観た時期もありますが、意外な場所での遭遇に、ふと冷静にならざるを得ませんでした。  映画のラストを締めくくるシーンで、曲が流れる中、マキシマスは「ローマ帝国の夢は実現される」と最期の言葉を残すのですが、これでは来場者が、かつて栄華を誇ったローマ帝国に現在のアメリカを重ねてしまうのではないかとの危惧を抱きました。それ以前には、マキシマスが「ローマは光だ。それ以外は残忍で無慈悲で、闇に満ちている」と評するシーンもあります。  イラク戦争では、女性や子供を含む大勢の市民が犠牲になったことは間違いなく、ブッシュ米大統領(当時)がその後、誤った情報分析に基づいて武力行使を行い、大量破壊兵器もなかったことを認める映像が今も記憶に刻まれている人も多いのではないでしょうか。  9.11は外交だけでなく、宗教、心情などの各方面で論争を巻き起こし、非常にデリケートな問題であるはず。それを、暴力描写を含む特定の映画音楽に重ねるのはいささか乱暴といわざるを得ません。つまり、一度でも主題歌を耳にしたことのある人なら、かの有名なイントロが流れた瞬間、「アメリカ=正義」という勧善懲悪の図式が無意識のうちに浮かんでしまうかもしれないのです。それって、怖いことだと思いませんか?  この非営利のワークショップでは、ツインタワーに旅客機が突っ込む瞬間はあえて展示せず、消防士やボランティアらの献身的な活動を中心に、復興の歩みを丹念に追っています。せっかくの真摯な試みが、仮に政治利用につながってしまったとしたら、悲しいことです。  「光と音の総合芸術」と呼ばれる映画。中でも音楽には、脳に興奮や陶酔をもたらす作用を持つリズムもある(*3)ため、強いインパクトのある映画音楽を用いる場面によっては、洗脳のリスクがあるのは否めません。映画は娯楽であると同時に、本来、何かしらの気づきをもたらす大事な役割があるはずだと信じる観客も多いかと思いますが、逆に思考停止に陥ってしまったら、それは制作サイド、観客の双方にとって不幸なのではないでしょうか。     ただ、ある映画監督によると、「現実が込み入りすぎて、観客は映画にもはやそうした機能を求めていない」といい、気づきという意味では、ハリウッドより低予算のアートハウス作品などが今後、さらに苦戦を強いられる可能性もあります。  『グラディエーター』で、マキシマスや元老院議員らは「すべてはローマ市民のために」と繰り返します。しかし、描かれるのはなぜか、歯が抜けていたり、コロッセウムに往年のチャンピオンを拍手で迎えたかと思えば、一転、“KILL, KILL(殺せ、殺せ)”と囃し立てたりする愚民が大半。物語の中盤で、噂の剣闘士を一目見ようと会場に詰め掛けた大勢の観客に対し、マキシマスが“Are you not entertained(これでもか)?”と叫ぶシーンがありますが、この台詞は皮肉にも、現代映画におけるエンターテインメントのあり方をめぐる問題の本質を突くひと言なのかもしれません。 バック淳子 http://ift.tt/1gY2Yvd <筆者プロフィール> 大学卒業後、記者として勤務。国際報道などに携わる。この夏よりロサンゼルスに映画留学予定。 <過去の記事> [World News #008]~ブリット・マーリングの魅力と魔力に迫る!~ http://ift.tt/1vO4PeR [World News #018] http://ift.tt/1lRsAPU (*1) allcinema ONLINE http://ift.tt/1vO4Orj (*2) 「グラウンド・ゼロ・ミュージアム・ワークショップ」公式サイト http://ift.tt/1lRsAPV (*3)ダイヤモンド・オンライン http://ift.tt/1vO4Pvb

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