2014年5月26日月曜日

[World News #023] カンヌ映画祭にあてられたゴダールからの手紙 http://ift.tt/1nkuJ6U 2014年のカンヌ国際映画祭が閉幕した。 メインコンペの主な受賞結果は別掲の通りだが(#1)、概ね無難な受賞結果に加えて、審査委員長ジェーン・カンピオンが事前に述べていた通り(#2)、パルムドールを受賞した女性監督がカンピオン以外存在しない事実に多少配慮したかの結果に見える。 審査員賞を最年長ゴダールと最年少グザヴィエ・ドーランが分け合ったのも、カンピオンによると意識的なチョイスであったとのことだ。(#3) 映画芸術への長年の貢献者であるゴダールにカンヌからはじめて敬意の証を送ることと、新しい才能の出現を同時に祝福しようというわけだ。 しかし、であるならば、この二人の作品にパルムドールを与えるくらいの英断があっても良かったように思われる。とりわけ、ドーランの作品は批評家からの評判も概ね高く、若く新しい才能に期待する意味でもパルムドールを期待する声が寄せられていた。(#4)しかし、そこまで思い切った選択が許されないのも、ある意味で権威となりすぎてしまったカンヌの現状を率直に反映しているのかもしれない。 (ヌリ・ビルゲ・ジェイランはカンヌ常連作家で、今作はとりわけ評判が高いが、批評家からの作家的評価は二分される。また、フェスティバルとして新鮮味がないのは正直なところだ。ただし、日本ではいまだ一本も彼の作品が正式公開されておらず、実際の所、こうした映画後進国的な国内状況下では同じ土俵に立ってコメントすることは不可能である。) 保守的な現状維持を基本とするフェスティバルの状況では、そのルーティンから逸脱する者の動きが、最も大きな注目を集める。 今回の場合、コンペに作品が選ばれながら、その招待をキャンセルしたジャン=リュック・ゴダールがそれにあたるだろう。 いや、ゴダールはいつだって同じだとも言えるが、いずれによせ、カンヌを欠席する言い訳として彼がジル・ジャコブ(会長)とティエリー・フレモー(ディレクター)に送ったビデオレターが公開された。 「Letter in motion to Gilles Jacob and Thierry Fremaux」(ジャコブとフレモーにあてたビデオレター)と題された9分弱の作品である。(#5) いつものように、ゴダールらしい様々な言葉の引用(ジャック・プレヴェール、ハンナ・アーレントなど)や自作の断片、そして様々な映像に満ちあふれているが、ジャック・リヴェットと共にフランソワ・トリュフォーの写真が長く映し出され、アーサー・リプリー監督による『The Chase』からの映像も引用されている。この作品は第2回カンヌ映画祭のコンペに出品されたフィルムノワールだ。 また、ゴダールの言葉に登場する1968年とは、ゴダールやトリュフォーらヌーヴェル・ヴァーグの作家たちがカンヌ映画祭に乗り込み、フェスティバルを中止に追い込んだいわゆる「カンヌ国際映画祭粉砕事件」のあった年だ。この事件は、やがて起きる五月革命へと波及していった。 以下、このゴダールによるビデオレターで発せられるおおよその言葉を訳出してみる。 --------------------------------- 親愛なる会長、ディレクター、そして同業者たち またしても、私をフェスティバルに招いていただいて感謝します。しかし、ご存じのように、私は映画の配給に関わるのをやめて長いのです。そして、私はあなたたちの思ってもいない場所にいる。実際、私は別の道を歩んでいるのです。時には何年も、あるいは数秒の間、私は他の世界に住んでいます。奇妙な伝導の書の庇護の元に。私は旅立ち、そこで暮らしている。 エディ・コンスタンティーヌ(『新ドイツ零年』):私はもはや、この環境を居心地良く感じていない。時代はもはや1923年ではなく、そして私はもはや警察のバリケードを破った男ではない。拳銃を手に背後で闘った男ではない。生を実感することが、スターリンやその革命よりもずっと重要なことだったのだ。 孤独のリスクとは自らを見失う危険のことだ、そう哲学者は思い込む。なぜなら、真実とは形而上学的な問いを発することだと彼は考えているからだ。そして実際、誰もが形而上学のみを問い続けている。哲学者のロジックとは、「他者」の存在を隠し通す術を問うものだ。それこそがロジックと私たちが呼ぶものなのだ。 モリー・リングウォルド(『ゴダールのリア王』):私の口には心がありません。 私の口もまた、もはや心を持っていない。 したがって、私は風の運ぶところに行くだろう。枯れ葉が風に舞い散るように。 たとえば昨年、私は市街電車に乗った。メタファーとして、そして… 私は戻ってきた。1968年、ハバナ・バーでの借りを返すために。そして今、私は信じている。物事を説明することの可能性のみが、言葉を手に闘うことの言い訳なのだと。…いつものように、私はそんな言い訳など信じていない。…今日、5月21日…これはもはや映画ではない。ただのワルツなんだ、親愛なる会長。目の前に迫った運命に対して、真のバランスを見出すための。 誠意を込めて ジャン=リュック・ゴダール --------------------------------- 大寺眞輔 http://blog.ecri.biz/ http://ift.tt/1knGQPv http://ift.tt/NSy3rx #1 パルムドール:ヌリ・ビルゲ・ジェイラン「Kis Uykusu (Sommeil D'hiver)」 グランプリ:アリーチェ・ロルヴァケル「Le Meraviglie」 監督賞:ベネット・ミラー(「Foxcatcher」) 審査員賞:グザヴィエ・ドラン「Mommy」、ジャン=リュック・ゴダール「Adieu Au Langage」 脚本賞:アンドレイ・ズヴィヤギンツェフ、オレグ・ネーギン(「Leviathan」) 女優賞:ジュリアン・ムーア(「Maps To The Stars」) 男優賞:ティモシー・スポール(「Mr.Turner」) #2 http://ift.tt/1nIlueY #3 http://ift.tt/1ieP5ZQ #4 http://ift.tt/1nkuJ6V #5 http://ift.tt/1nfuBrD http://ift.tt/1nkuJ6U



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