2015年2月14日土曜日

[World News #164] アメリカ市民社会の理想を体現した一人のジャーナリストの死  『ヒズ・ガール・フライデー』(ハワード・ホークス)や『パーク・ロウ』(サミュエル・フラー)など、強烈な職業意識に貫かれた筋金入りのジャーナリストは、かつてアメリカ映画が好んで描いた典型的キャラクターの一つだった。それはまさに、正義と公正を掲げたアメリカ市民社会の理想像そのものであっただろう。政府や大企業から与えられたニュースリリースをそのまま流し、タレントのファッションやゴシップ種を追いかけるだけの姿が巷で見かけるジャーナリストのイメージそのものとなりつつある現在、まるでフラーの映画からそのまま抜け出してきたかのような気骨あるジャーナリストが、それでもアメリカには存在した。それが、デヴィッド・カーだった。ニューヨーク・タイムズの名物コラムニストでありメディア・ジャーナリストであったカーは、2015年2月12日、映画『Citizenfour』を巡るディスカッションでNSA内部告発者エドワード・スノーデンや監督グレン・グリーンウォルドと議論した直後(#1)、ニューヨーク・タイムズ紙のニューズルームで倒れ、そのまま息を引き取った。58歳だった。(#2)  2008年に著した回想録「The Night of the Gun」(#3)によると、デヴィッド・カーは80年代後半までコカイン常習者だった。ドラッグ・ディーラーの妻との間に双子の娘を授かった彼は、ある日娘たちの安全のため麻薬常習者更正プログラムに参加することを決断する。やがてジャーナリストとなったカーは、アトランティック・マンスリーやニューヨーク・マガジンに寄稿した後、2002年ニューヨーク・タイムズに雇用される。深い教養と明晰な知性、歯に衣着せぬ明け透けな物言いと批判精神、そしてカジュアルな社交性とユーモアで瞬く間にトップ・ジャーナリストとなった彼は、同紙に署名入りコラムが掲載されるまでになる。  しかし、デヴィッド・カーを何よりも有名にしたのは2011年に製作された映画『ページ・ワン ニューヨーク・タイムズの内側』(監督アンドリュー・ロッシ)であろう。(#4)日本でも2012年の恵比寿映像祭で上映され(#5)大いに人気を博した同作は、筋金入りのジャーナリストであるカーの姿を多くの映画ファンの目に焼き付けることに成功した。同作でカーは、間違いなく主人公だった。ジャーナリズム界のチャンピオンとして長らく君臨してきたニューヨーク・タイムズ紙が、インターネットの時代になり、乱立するニュースサイトとの不利な闘いに苦戦する姿をドキュメントした『ページ・ワン』で、カーは印刷メディア側の代弁者として登場している。ニュースサイトの利便性を認めながらも、それらが一次情報に直接取材したものではなく、しばしば他の印刷メディアからソースを得ていることを彼は指摘した。そして、ニュースサイトのプリントアウトを見せた上で、もし紙メディアのソースが無くなればこれはこうなるとして、もはや枠しか残っていない白紙の紙をユーモアたっぷりに見せたのだ。  デヴィッド・カーと映画との関係はこればかりではない。アカデミー賞に頂点を迎えるアメリカのアワードシーズンに取材するニューヨーク・タイムズのコラム「Carpetbagger」を立ち上げたのが彼であったし、その中で数多くの映画祭を彼は取材した。そして、2010年のSXSWで審査員大賞を受賞した『Tiny Furniture』のレナ・ダナムを大手メディアで初めて取り上げたのもカーであり、さらにダナムをジャド・アパトーに紹介することで、後のHBOシリーズ「GIRLS/ガールズ」の大成功へと彼女を導いたのだ。(インスタグラムに投稿されたレナ・ダナム、そしてTwitterに投稿されたジャド・アパトーからの追悼メッセージをこの記事に添付した。)  Twitterなどのソーシャルメディア、デジタルメディアに誰よりも早く手を出していた彼は(#6)、あらゆる機会を利用しつつ、溢れんばかりのエネルギーでそのジャーナリズム精神を発揮した。『ページ・ワン』を見た人間、あるいは彼の残した様々な記事やニュース番組などでのパフォーマンス、声や身振りに触れたことのある人間であれば誰しも、その政治的立場や支持するメディアなどの問題を離れ、デヴィッド・カー個人のことを深く愛さずにはいられなかっただろう。媒体が紙からデジタルに移行するにせよ、ジャーナリズムの基本はあくまで人間の仕事なのだと主張したデヴィッド・カーは、その生き様そのもので自らの言葉を実践したのだ。 大寺眞輔(映画批評家、早稲田大学講師、その他) Twitter:http://ift.tt/NSy3rx Facebook:http://ift.tt/1knGQPv blog:http://blog.ecri.biz/ 第3回新文芸坐シネマテーク 植民地行政官の娘 クレール・ドゥニ ■3/6(金)『パリ、18区、夜。』 J'ai pas sommeil 開場19:30 開映19:45 講義終了22:40(予定) ■3/13(金)『35杯のラムショット』 35 rhums  開場19:15 開映19:30 講義終了22:15(予定) http://ift.tt/1uR44n5 #1 http://ift.tt/1KQI5SS #2 http://ift.tt/1uLWCeJ #3 http://ift.tt/1uD3HsM #4 http://ift.tt/1jMwvIt #5 http://ift.tt/1JcbJVb #6 http://ift.tt/YslgAw

from inside IndieTokyo http://ift.tt/1myAn4W

via IFTTT

0 件のコメント:

コメントを投稿